宮野、ヴァンクーバー アルバイト面接編

読み物

Youは何しにヴァンクーバーへ?

我々の人格形成には生まれ育った環境が深く関わってくる。

宮野は怠惰な自分を変えたかった。

実家という生ぬるい環境に身を置くことで自分の体が鉛のように重くなっていくような気がした。

自分自身を変えるには置かれている環境を変えなければならない。

旅の始まりである。

勝手にアルバイトに応募されていた話

人は簡単に変化するはずがない。

ヴァンクーバーに到着して早くも一か月が経とうとしていた。

宮野は岩手県在住ニートからヴァンクーバー在住のニートへとクラスチェンジを果たしていた。

世話になっているホームステイ先の叔母からは1週間に1度の頻度で、外に出てアルバイトかボランティアでもしなさいと急かされていた。

それでも変わらない。それが人間である。

3月のある日、叔母から告げられる。

「アルバイトに応募しておいたから」

「???????」

叔母の旦那、宮野からすると義理の叔父がPNEという遊園地のレストランで働いているのだが、どうやらそのPNEでのアルバイトに宮野の名前で応募したようだ。

何も聞かされず勝手に応募されていたことに疑問を覚えなくはないが、今だ一銭も稼いでおらず、生活費を滞納している宮野に断るすべはない。

面接開始

それから1週間後、面接が行われた。

面接はGoogle Meetを使ったオンラインの集団面接だった。

指定された時間になり、渡されたURLをクリックして部屋に入るとすでに2,3人の応募者が入室した状態っだった。

面接官は中国系の女性で、宮野と同じかそれよりも下の年齢に見えた。

宮野は面接官に軽く挨拶し、マイクとカメラをオフにして面接の開始を待つ。

開始の時間が近づくにつれポツポツと人が入室してくる中、総勢10名を超えたあたりで異変が起こる。

イヤホンから人の話し声や生活音のようなものが聞こえるのである。

この手のWeb会議用のアプリでは、話している人物がハイライトされて画面の中央に大画面で表示されるようになっていて、その時の宮野の画面にはインド系の50代くらいの女性が映し出されていた。

インド人のおばさんはどうやらカメラやマイクの使い方をそばにいる誰かに尋ねているようであったが、それらは当然デフォルトでオンのままなのですべてが垂れ流しであった。

面接官がそのことを注意し、マイクをオフにするように促すが、すぐには改善されない。

結局、おばさんの息子のような人物が出てくると彼がパソコンを操作してマイクをオフにした。

PNEで働く人の大半は学生、特に高校生のティーンエイジャーのため宮野は自分が一番年上の覚悟で面接に臨んでいたが、自分よりも大幅に年齢が上の人がいるのは少し誤算だった。

初めての英語の面接ということもあり、宮野はガチガチに緊張していた。

しかし、この一連のトラブルを見たことによって

「なんかいけそうじゃね?」

という思いが芽生え、人知れずインド人のおばさんに感謝した。

そうこうしているうちに定刻となり、面接が始まった。

最初に出された課題は自己紹介で、まず手本として面接官が自己紹介を行った。

自己紹介の中身は最初に名前、次にPronoun、それからどうしてPNEで働きたいのかを言うというものだった。

面接官の手本が終わると彼女は順番は特に決めていないので好きな人から挙手して自己紹介をするようにと言った。

Pronounの意味が理解できずに頭の中が「?」でいっぱいの宮野は見に回る。

ほかの応募者たちは理解しているようで何人かが手を挙げ、順番に自己紹介を始める。

彼らの自己紹介を注意深く聞くと皆が皆

「My pronouns are he or him」であったり、「My pronouns are she or her」

と言っていることに気づいた。

どうやらPronounというのは代名詞のことを言っているらしい。

ここでいう代名詞とはいわゆる性自認のことで、簡単に言えば自分が男か女か、はたまたそれ以外かを言えという意味のようであった。

名前の次に自分の代名詞を言うという極めて欧米的な自己紹介に宮野は少なからず困惑したものの、志望理由などは予め考えてきていたため、無難に最初の課題をクリアした。

全員の自己紹介が終わると面接官が一枚のスライドを画面共有し、次の課題について説明を始めた。

2つ目の課題はPNEで提供しているサービスをお客様への販売促進となるような形で紹介しろというものだった。

スライドにはジェットコースターなどの乗り物や、的当てなどのゲーム、Fun Claw(楽しい爪)と呼ばれるUFOキャッチャー、ドーナツやホットドッグなどのイラストが描かれていた。

彼女の説明によると、このスライドに描かれている商品の中から1つを選択して、その商品の価格、優れている点や楽しいポイントなどをお客様に説明しろというものだった。

一度もPNEで遊んだことのない宮野は当然それらのアトラクションや商品の特徴と値段を知るはずがない。この質問は自分にとって不利であり最初のピンチであることを悟り、まずは他の応募者たちがどのような回答をするかを聞いて情報を集めようと考えた。

しかし、ここで面接官が発言をする。

「今回の課題では、私のリストの一番上のひとから回答を行ってもらいます」

途端に信心深くなる宮野。

「1番は嫌だ、1番は嫌だ」

ここまで何かを嫌がるのはハリーポッターか宮野くらいのものだっただろう。

「まぁ俺のイニシャルAとかじゃないし、さすがに1番ではないやろ」

という思考もあり、心には僅かな余裕が残されていた。

その傲りを無慈悲にも打ち砕くように面接官の発言が続く。

「えーでは、Yudai Miyanoあなたが最初の回答者です。1分間のシンキングタイムを与えるのでその後に回答を行ってください」

顔面蒼白の宮野。

何も知らない商品について即興で売り文句を考えて更にそれを英語で発表するか

はたまたこのままGoogle Meetを閉じ日本へと敗走するか

道は二つに一つ。

思考が走馬灯のように巡る中、一つの答えにたどり着く。

無様な回答をして面接に落ちるのも、ここで画面を閉じて逃げるのも結果は変わらない。

ならばここは回答し得。

むしろガキどもに大学を出ている大人の面接のやり方を見せてやろう。

宮野、覚醒の瞬間であった。

53万のIQを総動員して売り文句を考え、それをそのままグーグル翻訳にぶち込む。

なんとか時間内にそれらの作業を終え、いよいよ発表の時がやってくる。

宮野が選択した商品はドーナツだった。乗ったことがないアトラクションの感想や価格を考えるのと比べてドーナツは遥かに一般的な商品であり、難易度が低いと考えたからである。

「このドーナツの価格は7.5ドル(実際には税込み8.4ドル)で、まぶしてある砂糖によってそとはサクサク中はふわふわでとても甘くておいしい。いかにこの遊園地が楽しいといえど、一日中パークの中を歩き回って乗り物に乗っていたら疲れてしまう。そんな時にこのドーナツを食べて元気を補充してまた楽しもう」

というようなことを英語でスピーチした。

結果から言えばこれは大きな成功だった。

後から続く他の応募者たちのスピーチは大したものではなく、最も考える時間も情報も少なかったことを加味すれば上々の結果だった。

課題は3つ目へと続く。面接官によるとどうやらこれが最後の課題らしい。

試験の内容は我々アルバイト募集者が実際に面接に受かって働き始めたとして、仕事中に直面する様々なシチュエーションでのトラブルにどのような対応をするかを答えよというものだった。

尋ねられる質問は一人一人違い、順番はランダムだと面接官が説明する。

2つ目の課題をクリアした時点で完全にハイになっていた宮野は、向かうところ敵なしといった心理状態でどういった質問が来るのかを見守った。

最初の質問は

「あなたがキャンディーの屋台で働いていたとして、お客様が綿菓子を地面に落としてしまった。その時あなたはどういった対応をとる?」

というものだった。

次の応募者にはまた別のベクトルからの質問がされていた。

「あなたの同僚が、来園してきたその同僚の友人たちに無料で商品を渡しているのをあなたは目撃した。あなたはどういった対応をとる?」

という内容だった。

その後に続く質問はこの2つとディテールは異なるものの根幹に大きな違いはないようで、どうやら面接官は我々がお客様からの要望や同僚の不正に対してどのような対応をとるのかを確認したいということらしい。

6,7人に対して質問が行われたところで、あの最初にトラブルを起こしていたインド人のおばさんの名前が呼ばれる。彼女への質問は次のようなものだった。

「商品の在庫のチェックを行ったところ数が合わない。どうやらあなたの同僚のうちの誰かが在庫をくすねているようだ。あなたはどういった対応をする?」

インド人の女性は面接官の質問が理解できなかったようで、もう一度質問を繰り返してもらえるかと要望を出した。面接官が同じ説明を行う。

今度は質問の内容を理解したようだが、彼女は一向に回答しない。痺れを切らした面接官は後でもう一度別の質問をするから準備をしておくようにと言った。

インド人の次は宮野であったようで名前が呼ばれる。

どんな質問が来るのかと戦々恐々としていると、前の人がされた質問を覚えているかと問われる。

「Yes」と答えたところ、では質問に答えてくださいと言われる。

どうやら質問の数が限られているようで、なんと宮野への質問がインド人への質問の流用だったのである。驚きはしたもののインド人が聞かれている時から自分ならばなんと答えるかを考えていたため、あらかじめ答えを準備することはできていた。

この手のクレームや問題への対応の正解は自分で解決しようとせずに上司に報告することだということを知っていた宮野は

「直接注意をしたりするとトラブルが大きくなる可能性があるので、その場では見て見ぬふりをして、後でマネージャーに報告する」

という回答を行った。及第点といった回答だったようで面接官は頷いた後に残りの人への質問を始めた。

最後に再びあの時後に回されたインド人の順番が回ってくる。

しかし、ここで再び違和感が生じる。

「あのおばさん部屋にいなくね?」

インド人のおばさんまさかの途中退出。

宮野ですら躊躇して選ぶことができなかった禁断の選択肢、「逃亡」を行ったのである。

おばさんのドタバタに緊張をほぐしてもらった挙句、質問までそのまま流してもらう。

こうして、嵐のように去っていったインド人への感謝を胸に面接は終了となった。

結果発表

手前味噌ではあるが今回の面接はとてもうまくやれた。

それでも採用されないのであればカナダで仕事に就くことは事実上不可能のように感じた。

英語を話すのが下手な日本人が外国でコネもなしに仕事に就くのは本当に難しい。

もし、この面接で落とされたらもう日本に帰ろう。その覚悟を持って臨んだ。

2週間後会社から1通のメールが届く。

合格通知であった。

あのインド人のやべーおばさんと一緒に働くの楽しみだなー(受かっているはずがない)

To be Continued

次回、宮野 ヴァンクーバーアルバイト編

コメント

タイトルとURLをコピーしました